「自分の退職金は、世間の平均と比べて多いの?少ないの?」——老後資金を考え始めると、まず気になるのが退職金の相場です。ところが「退職金の平均は約2,000万円」といった数字だけが独り歩きしていて、自分のケースに当てはめにくいのが実情ではないでしょうか。
結論から言うと、退職金は「学歴・勤続年数・退職理由・企業規模」によって数百万円〜2,000万円超まで大きく変わります。さらに、そもそも退職金制度がある企業は全体の約75%にとどまり、金額も年々減少傾向にあります。
この記事では、厚生労働省「就労条件総合調査」など公的データの最新値(2026年時点で参照できる最新公表値)をもとに、年代・勤続年数・学歴・企業規模別の退職金相場を整理し、「自分の相場」を把握できるように解説します。
- 大卒・定年退職の退職金平均は約1,896万円(厚労省・令和5年調査)
- 退職理由で大きく変わる:自己都合は定年より数百万円少ない
- 退職金制度がある企業は全体の74.9%。約4社に1社は退職金なし
- 大企業(大卒約2,140万円)と中小企業(大卒約1,092万円)で約2倍の差
- 退職金は減少傾向。iDeCo・新NISAでの「自分年金」づくりが重要に
結論:退職金の平均額と「自分の相場」の見方
退職金の金額は、主に次の4つの要素で決まります。
- 学歴・職種:大学・大学院卒か高校卒か、管理・事務・技術職か現業職か
- 勤続年数:長く勤めるほど増える(特に勤続20年以降に大きく伸びる)
- 退職理由:定年>会社都合>自己都合の順で多い傾向
- 企業規模:大企業ほど高く、中小企業は半分程度になることも
つまり「平均◯◯万円」だけを見ても自分の相場はわかりません。自分の条件(学歴・勤続・退職理由・会社の規模)に近いデータを見ることが、現実的な金額を知る近道です。以下、条件別に詳しく見ていきましょう。
そもそも退職金とは?「制度がある会社」は約75%
退職金(退職給付)とは、退職時に企業から支払われるお金のことです。法律で義務づけられた制度ではないため、そもそも退職金制度がない会社も存在します。
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業の割合は次のとおりです。
| 企業規模 | 退職給付制度がある企業の割合 |
|---|---|
| 全体 | 74.9% |
| 従業員1,000人以上 | 90.1% |
| 従業員30〜99人 | 70.1% |
出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」(2023年)
全体で約4社に1社(25%)は退職金制度がない計算です。特に中小企業ほど制度がない割合が高くなります。まずは「自分の会社に退職金制度があるか」「あるならいくらか」を就業規則や退職金規程で確認することが第一歩です。
退職金の3つの形態
退職金には大きく3つの形態があります。
- 退職一時金:退職時にまとめて一括で受け取る(最も一般的)
- 退職年金(企業年金):分割して年金形式で受け取る(確定給付企業年金・企業型DCなど)
- 両制度併用:一時金と年金を組み合わせて受け取る
近年は企業型DC(確定拠出年金)の普及により、「自分で運用する退職金」の比重が高まっています。受け取り方によって税金が変わるため、後述するように出口戦略が重要です。
退職金はどう決まる?計算方法の主な3タイプ
退職金の金額は、会社ごとの「退職金規程」に基づいて計算されます。代表的な算定方式は次の3つです。自分の会社がどの方式かを知ると、おおよその金額を見積もりやすくなります。
- 基本給連動型:「退職時の基本給 × 勤続年数に応じた支給率 × 退職事由係数」で計算する伝統的な方式。基本給が上がるほど退職金も増えますが、近年は採用する企業が減少傾向です。
- ポイント制:勤続年数・役職・等級などに応じて毎年「ポイント」を積み上げ、退職時に「累計ポイント × ポイント単価」で算出する方式。成果や役職が反映されやすく、近年の主流です。
- 定額制:基本給と連動させず、勤続年数だけで金額を定める方式。中小企業で見られます。
多くの方式で「自己都合」だと支給率(退職事由係数)が下がる仕組みになっており、これが定年・会社都合に比べて自己都合の退職金が少なくなる主な理由です。正確な金額は、勤務先の退職金規程や人事・総務に確認するのが確実です。
【2026年最新】学歴・退職事由別の退職金平均額
厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」による、勤続20年以上かつ45歳以上の退職者の1人あたり平均退職給付額(退職一時金+退職年金)です。退職理由別・学歴職種別にまとめました。
| 退職事由 | 大学・大学院卒 | 高校卒(管理・事務・技術職) | 高校卒(現業職) |
|---|---|---|---|
| 定年 | 1,896万円 | 1,682万円 | 1,183万円 |
| 会社都合 | 1,738万円 | 1,385万円 | 737万円 |
| 自己都合 | 1,441万円 | 1,280万円 | 921万円 |
出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」(2023年)
表から読み取れる重要なポイントは次の3つです。
- 定年>会社都合>自己都合の順に多い。大卒の場合、定年(1,896万円)と自己都合(1,441万円)では約455万円の差があります。
- 学歴・職種による差も大きく、大卒定年と高卒現業職定年では700万円以上の開きがあります。
- 転職などで自己都合退職する場合は、定年まで勤めた場合より退職金が少なくなる点を踏まえて資金計画を立てる必要があります。
年代別・勤続年数別の退職金相場の目安
退職金は勤続年数と強く連動します。大卒であれば「年齢 ≒ 勤続年数 + 22歳」なので、勤続年数から年代別の目安を読み取れます。中央労働委員会「賃金事情等総合調査(令和4年度)」による、大企業・大卒・自己都合退職の勤続年数別モデル退職金は以下のとおりです。
| 勤続年数 | 年代の目安(大卒) | 退職金(自己都合・大企業) |
|---|---|---|
| 勤続10年 | 30代前半 | 約183万円 |
| 勤続20年 | 40代前半 | 約762万円 |
| 勤続30年 | 50代前半 | 約1,772万円 |
出典:中央労働委員会「賃金事情等総合調査(令和4年度)」大企業・大学卒・自己都合退職のモデル退職金
注目すべきは、勤続10年(約183万円)から勤続20年(約762万円)、勤続30年(約1,772万円)へと、後半になるほど金額が急カーブで増える点です。これは多くの企業の退職金が「勤続年数に応じて支給率が逓増する」設計になっているためです。
つまり、20代・30代前半で転職すると退職金はごくわずかになりやすい一方、勤続が長くなるほど1年あたりの上乗せが大きくなります。「あと数年で勤続20年・30年の節目」という場合は、退職タイミングが退職金額に与える影響が大きいことを覚えておきましょう。
勤続年数別(定年)の学歴別データ
厚労省・令和5年調査の定年退職者を勤続年数別に見ると、次のようになります。
| 勤続年数 | 大学・大学院卒 | 高校卒(管理・事務・技術職) |
|---|---|---|
| 勤続30〜34年 | 1,891万円 | 1,094万円 |
| 勤続35年以上 | 2,037万円 | 1,909万円 |
出典:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査の概況」(2023年)
勤続35年以上(新卒からほぼ定年まで勤め上げたケース)になると、大卒で約2,037万円。いわゆる「退職金2,000万円」は、長く勤め上げた大企業の大卒モデルに近い数字といえます。
企業規模別:大企業と中小企業の退職金格差
退職金は企業規模によって大きく異なります。大企業(中央労働委員会調べ)と中小企業(東京都産業労働局調べ)の定年退職金を比較します。
| 区分 | 大学卒 | 高校卒 |
|---|---|---|
| 大企業(定年) | 約2,140万円 | 約2,020万円 |
| 中小企業(定年) | 約1,092万円 | 約994万円 |
出典:大企業=中央労働委員会「賃金事情等総合調査(令和4年度)」/中小企業=東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」
大卒で見ると、大企業の約2,140万円に対し中小企業は約1,092万円と、およそ2倍の差があります。「退職金は約2,000万円」というイメージはあくまで大企業の水準であり、中小企業ではその半分程度が現実的な相場です。自分の勤務先の規模に合わせて期待値を調整することが大切です。
退職金は年々減少している
見落とされがちですが、退職金の平均額は長期的に減少傾向にあります。厚労省調査で「勤続20年以上・45歳以上の大卒定年退職者」の平均退職給付額を比較すると、次のように下がっています。
- 平成30年(2018年):1,983万円
- 令和5年(2023年):1,896万円(5年で約87万円減)
あわせて、退職給付制度がある企業の割合も平成30年の80.5%から令和5年の74.9%へと低下しています。背景には、企業の負担軽減、終身雇用の変化、確定給付から確定拠出(自己運用型)への移行などがあります。
退職金は減少傾向で、制度がない会社も増えています。「退職金でローンを完済」「退職金で老後資金をまかなう」といった前提は、今後さらに崩れる可能性があります。現役のうちから自分で備える視点が欠かせません。
退職金は「もらって終わり」ではない:税金と運用
退職金は金額が大きいだけに、受け取り方と使い方で手元に残る額が変わります。押さえるべきは「税金」と「運用」の2点です。
① 退職金の税金(退職所得控除)
退職一時金には「退職所得控除」という大きな優遇があり、勤続年数が長いほど非課税枠が増えます。一時金で受け取るか年金で受け取るかによって税負担が変わるため、受け取り方は事前にシミュレーションが必要です。詳しくは退職金の税金を徹底解説|一時金vs年金どちらが有利かで解説しています。
また、iDeCoや企業型DCを退職金と同じ時期に受け取る場合、2026年改正で厳格化された「10年ルール(退職所得控除の重複調整)」に注意が必要です。受け取る順序とタイミングで税額が大きく変わるため、iDeCo受け取りと退職金の「10年ルール」完全解説もあわせて確認しておきましょう。
② 退職金の運用
まとまった退職金を一度に投資するのはリスクが高く、「退職金デビュー」で失敗する人も少なくありません。生活防衛資金を確保したうえで、時間分散・資産分散を意識した運用が基本です。具体的な方法は退職金の運用おすすめ方法5選|失敗しない3分割戦略で詳しく紹介しています。
退職金が少ない・ない場合の備え方
「退職金が少なそう」「そもそも制度がない」という場合でも、現役のうちから準備すれば十分にカバーできます。柱となるのが、税制優遇のある2つの制度です。
- iDeCo(個人型確定拠出年金):掛金が全額所得控除になり、運用益も非課税。いわば「自分でつくる退職金」。2027年1月からは掛金上限の引き上げも予定されています。
- 新NISA:年間最大360万円・生涯1,800万円まで非課税で運用可能。いつでも引き出せる柔軟性があり、老後資金づくりの中心に据えやすい制度です。
老後にいくら必要かの全体像は老後2000万円問題は本当?2026年最新データで「必要額」を正確に計算するで、退職金を含めた必要額の考え方を整理しています。
よくある質問
Q1. 退職金の平均はいくらですか?
厚労省・令和5年調査では、勤続20年以上・45歳以上の大卒定年退職者で約1,896万円です。ただし学歴・退職理由・企業規模で大きく変わり、中小企業の大卒では約1,092万円が目安です。
Q2. 退職金は勤続何年からもらえますか?
企業の退職金規程によりますが、「勤続3年以上」を支給条件とする会社が多く見られます。ただし勤続が短いと金額はごくわずかです。自己都合の場合、勤続10年(大企業・大卒)でも約183万円程度が目安です。
Q3. 自己都合と会社都合で退職金は変わりますか?
変わります。一般に「定年>会社都合>自己都合」の順で多くなります。大卒では定年1,896万円に対し自己都合は1,441万円と、約455万円の差があります(厚労省・令和5年調査)。
Q4. 中小企業だと退職金はどれくらいですか?
東京都産業労働局の調査では、中小企業の定年退職金は大卒で約1,092万円、高卒で約994万円が目安です。大企業の約半分の水準と考えておくと現実的です。
Q5. 退職金がない会社で働いています。どうすればいい?
iDeCoや新NISAを使って「自分で退職金をつくる」のが有効です。特にiDeCoは掛金が全額所得控除になり節税しながら老後資金を準備できます。早く始めるほど複利の効果が大きくなります。
Q6. 退職金は税金でどれくらい減りますか?
退職一時金には「退職所得控除」という大きな優遇があり、勤続20年までは1年あたり40万円、20年超は1年あたり70万円が非課税枠になります。たとえば勤続35年なら控除額は1,850万円。控除を超えた分も「2分の1課税」となるため、多くのケースで給与より税負担は軽く済みます。ただし受け取り方やiDeCoとの兼ね合いで変わるため、事前のシミュレーションが重要です。
Q7. 退職金はいつ振り込まれますか?
会社により異なりますが、退職一時金は退職後おおむね1〜2か月以内に指定口座へ振り込まれるのが一般的です。支給時期や手続きは退職金規程で確認できます。確定給付企業年金や企業型DCの場合は、別途受け取り手続きが必要です。
まとめ:自分の条件で相場を把握し、足りない分は自分で備える
退職金の相場は条件によって大きく異なります。要点を整理します。
- 大卒・定年退職の平均は約1,896万円(厚労省・令和5年調査)
- 退職理由で変動:定年>会社都合>自己都合(大卒は定年と自己都合で約455万円差)
- 企業規模で約2倍の差:大企業 大卒約2,140万円/中小企業 大卒約1,092万円
- 退職金制度がある企業は74.9%。金額・制度ともに減少傾向
- 退職金頼みは危うい。iDeCo・新NISAで「自分年金」を準備するのが現実解
まずは自分の会社の退職金規程を確認し、本記事の条件別データと照らし合わせて「自分の相場」を把握しましょう。そのうえで不足が見込まれるなら、iDeCoや新NISAでの準備を今日から始めることが、安心できる老後への近道です。
退職金・老後資金のチェックリスト
- 自分の会社に退職金制度があるか(就業規則・退職金規程)を確認したか
- 自分の学歴・勤続・退職理由・企業規模に近い相場を把握したか
- 退職金の受け取り方(一時金/年金)と税金を理解しているか
- 退職金だけに頼らず、iDeCo・新NISAで備えを始めているか
- 退職金を受け取ったら、一括投資を避け時間分散で運用する方針か
退職金が少なめでも、現役のうちからの積立で十分にカバーできます。まずはiDeCoか新NISAの口座開設から始めてみましょう。
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