「新NISAで運用中の家族が亡くなったら、非課税はどうなる?」——この疑問を持つ方が急増しています。2024年から始まった新NISAは生涯投資枠1,800万円と優れた制度ですが、相続が発生すると非課税の扱いは大きく変わります。「NISA口座のまま引き継ぎたい」「非課税を相続人に引き継ぐことはできないの?」という希望は、残念ながら2026年時点では叶えられません。本記事では、新NISA口座を持つ人が亡くなった場合の手続きの流れ・必要書類・相続税の課税・節税チャンスまで2026年最新情報を徹底解説します。
新NISAと相続:まず知っておくべき3つの基本ルール
新NISA口座の名義人が亡くなった場合、相続手続きに入る前に必ず押さえておきたい3つの基本ルールがあります。これを知らずに手続きを進めると、思わぬ税負担が生じたり、移管ができなかったりするトラブルに発展します。
ルール①:NISA口座の非課税は死亡日に即時終了する
新NISA口座の非課税メリットは、名義人が死亡した日をもって即時に終了します。死亡日以降に発生した運用益(配当・売却益)は課税対象となります。
具体的には、死亡日時点でNISA口座内にあった資産は「みなし譲渡課税」の対象にはなりませんが、その後の運用益は相続人が課税口座で引き受けることになります。「NISA口座を相続人がそのまま使い続ける」ことは法律上できません。
| 区分 | 非課税の扱い |
|---|---|
| 死亡日以前の運用益 | 非課税(NISA口座ルールが適用) |
| 死亡日以降の運用益 | 課税(特定口座・一般口座扱い) |
| 相続人のNISA口座 | 引き継ぎ不可(相続人自身の枠で新規活用のみ) |
ルール②:移管先は同一金融機関の課税口座のみ
NISA口座内の資産は、被相続人が口座を持っていた金融機関の特定口座または一般口座にしか移管できません。別の金融機関への直接移管は認められていないため注意が必要です。
たとえば被相続人がSBI証券のNISA口座で運用していた場合、SBI証券の特定口座(または一般口座)に移管されます。相続人がすでにSBI証券に口座を持っていれば、そこへの入庫が可能です。ただし相続人が別の証券会社しか持っていない場合は、まず同じ証券会社に口座を開設する必要があります。
「現金で受け取りたい」という場合は、移管前に売却して換金してから現金で相続することも可能です。ただし手続き中に株価が動くリスクもあるため、相続人間で十分に協議したうえで方針を決めましょう。
ルール③:取得価格は被相続人の取得費を引き継ぐ
相続によって引き継いだ資産の取得価格(取得費)は、被相続人が実際に購入した価格をそのまま引き継ぎます。被相続人が数十年前に安く買った銘柄も、その購入価格が相続人の取得費となります。
たとえば被相続人が1株1,000円で買った株を相続した場合、相続人の取得費も1,000円/株です。相続後に株価が1株3,000円になったときに売却すると、差額2,000円が譲渡所得として所得税・住民税(合計20.315%)の課税対象となります。含み益が大きい銘柄を相続した場合は、売却のタイミングや節税策を事前に検討することが重要です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 取得費の基準 | 被相続人が購入した価格(取得費)をそのまま引き継ぐ |
| 相続人の取得費 | 被相続人の購入価格=相続人の取得費 |
| 含み益がある場合 | 相続人が売却時に譲渡所得として課税される可能性がある |
| 節税策 | 取得費加算の特例(相続税支払い済みの場合)を活用できる |
手続きの流れ5ステップ:死亡から移管完了まで
新NISA口座を持つ人が亡くなった場合の手続きは、大きく5つのステップで進みます。手続きを放置すると口座が凍結状態になり、運用益が課税口座扱いになるリスクがあるため、できるだけ早めに手続きを開始しましょう。
ステップ1:死亡届の提出と相続人の確定
亡くなった日から7日以内に、市区町村役場へ死亡届を提出します(葬儀社が代行する場合も多い)。その後、戸籍謄本を収集して法定相続人を確定させます。
相続人が複数いる場合は、NISA口座内の資産を誰が相続するかを遺産分割協議で決める必要があります。遺言書がある場合は遺言書の内容に従います。
ステップ2:金融機関への死亡連絡(口座凍結)
NISA口座がある証券会社・銀行にできるだけ早く死亡を連絡します。金融機関は死亡を確認次第、口座を凍結します。凍結後は引き出しも売買もできなくなります。
連絡が遅れると、死亡後も口座が動き続け、後から手続きが複雑になる場合があります。相続の第一歩として金融機関への連絡を最優先にしましょう。
ステップ3:遺産分割協議と遺産分割協議書の作成
相続人全員で遺産の分割方法を話し合い、遺産分割協議書を作成します。NISA口座内の資産についても「誰が何を相続するか」を明記する必要があります。
遺産分割協議書は相続人全員の署名・押印(実印)が必要です。話し合いがまとまらない場合は弁護士や司法書士への相談も選択肢です。
ステップ4:金融機関への相続手続き書類提出
遺産分割協議書が完成したら、証券会社・銀行の所定の相続手続き書類と合わせて提出します。主な必要書類は以下のとおりです。
- 被相続人の除籍謄本(死亡が確認できるもの)
- 相続人全員の戸籍謄本(法定相続人の確認)
- 遺産分割協議書(相続人全員の署名・実印押印)
- 相続人全員の印鑑証明書
- 資産を受け取る相続人の本人確認書類(運転免許証等)
- 資産を受け取る相続人の口座情報(同一金融機関の課税口座番号)
- 金融機関所定の相続手続き申請書
遺言書がある場合は遺産分割協議書の代わりに遺言書(公正証書遺言の場合はそのまま、自筆証書遺言の場合は家庭裁判所の検認済みのもの)を提出します。
ステップ5:課税口座への移管完了
書類審査が完了すると、NISA口座内の資産が相続人の課税口座(特定口座または一般口座)に移管されます。手続き完了まで通常1〜2ヶ月程度かかります。
移管後は相続人が自由に売却・継続保有を選択できます。売却益が発生した場合は課税口座のルールに従い課税されます。
相続税の計算:NISAでも相続税はかかる
「NISAは非課税だから相続税もかからない」と思っている方が多いですが、それは誤解です。NISAの非課税とは「運用益・配当への所得税・住民税が非課税」という意味であり、相続税は別の税金のため課税対象になります。
上場株式の相続税評価額の計算方法
NISA口座内の上場株式・ETF・投資信託(上場型)の相続税評価額は、以下の4つの価格のうち最も低い金額が採用されます。これは相続人にとって有利な評価方法です。
- 死亡日の終値
- 死亡日が属する月の毎日の終値の平均額
- 死亡日の前月の毎日の終値の平均額
- 死亡日の前々月の毎日の終値の平均額
なお、死亡日が土日祝日の場合は直前の取引日の終値が使われます。非上場の投資信託(公募株式投資信託)は死亡日の基準価額が採用されます。
相続税評価額の計算例
たとえば保有株式Aについて以下の価格だった場合:
| 評価基準 | 株価 |
|---|---|
| 死亡日(10月15日)終値 | 3,200円 |
| 10月の月平均終値 | 3,050円 |
| 9月の月平均終値 | 2,980円 ← 最低値 |
| 8月の月平均終値 | 3,100円 |
この場合、相続税評価額は2,980円/株(4つの中で最も低い価格)が採用されます。1,000株保有していれば評価額は298万円となります。
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人数」です。遺産総額が基礎控除以下であれば相続税申告は不要ですが、超える場合は相続開始を知った翌日から10ヶ月以内に申告・納税が必要です。この期限は絶対的な期限であり、延長は原則認められていません。
取得費加算の特例:節税チャンスを見逃すな
相続税を支払った場合、取得費加算の特例を活用することで売却時の所得税・住民税を節税できるチャンスがあります。この特例は多くの人が見落としている重要な節税策です。
取得費加算の特例とは
相続等により取得した財産を相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売却した場合、その財産に対して支払った相続税の一部を取得費に加算できる特例です(租税特別措置法第39条)。
取得費が上がると売却時の譲渡所得が圧縮され、所得税・住民税(合計20.315%)の負担を減らせます。
取得費加算額の計算式
加算できる金額は以下の計算式で算出します。
取得費加算額 = 支払った相続税 ×(売却した財産の相続税評価額 ÷ 相続した全財産の相続税評価額)
たとえば相続税を300万円支払い、売却した株式の評価額が相続財産全体の20%を占める場合:
取得費加算額 = 300万円 × 20% = 60万円が取得費に加算されます。
この60万円分が課税対象から除外されるため、売却益が60万円以上あれば最大約12.2万円の節税効果(60万円×20.315%)があります。
取得費加算の特例を使うための3つの条件
- 相続税の申告・納税が完了していること
- 売却が相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までであること(申告期限は相続開始を知った翌日から10ヶ月)
- 確定申告で特例の適用を申請すること(期限後申請は不可)
「相続税を支払ったが確定申告でこの特例を使い忘れた」という事例が後を絶ちません。相続した株式を売却する際は、必ず税理士または証券会社に確認してください。
確定申告の詳細は株式投資の確定申告・損益通算のやり方も参照してください。
よくある失敗6選:相続手続きで損しないために
失敗①:手続きを後回しにして不必要な課税が発生
死亡日以降のNISA口座内の運用益は課税対象になりますが、手続きが完了するまで口座は凍結状態です。凍結中の配当・分配金は死亡後に支払われたものとして課税扱いになる場合があります。できるだけ早く金融機関に連絡し、手続きを開始しましょう。
失敗②:他の金融機関に直接移管しようとして失敗
「相続人が使っている証券会社に移管したい」と思っても、NISA口座の資産は同一金融機関の課税口座にしか移管できません。事前に被相続人の口座がどこにあるか確認し、相続人がその金融機関に口座を持っているかチェックしておきましょう。
失敗③:相続税の申告を忘れる
「NISAは非課税」という思い込みから、NISA口座内の資産を相続財産に含めず相続税申告を怠るケースがあります。相続税の無申告や過少申告は、加算税(最大40%)・延滞税が課されます。遺産総額が基礎控除を超える場合は必ず税理士に相談しましょう。
失敗④:取得費加算の特例を使い忘れる
相続した株式を売却した際に確定申告を行わず、取得費加算の特例の適用を申請しないケースです。本来なら節税できたのに、期限後の申請は認められません。相続した株式を売却する前に必ず確認してください。
失敗⑤:相続人が複数いる場合の遺産分割協議でもめる
株式は分割しにくい財産です。複数の銘柄がある場合は端数が出たり、値動きで不公平感が生じたりすることがあります。現金化してから分割するか、事前に遺言書で指定しておくことで争いを防げます。
失敗⑥:「相続NISA」の実現を期待して売却・移管を先延ばしにする
「将来、相続人がNISA非課税を引き継げる制度(相続NISA)が実現するかもしれない」と期待して、売却・移管の判断を先延ばしにするケースがあります。2026年時点では相続NISAは法制化されておらず、具体的な制度の見通しも明確ではありません。現行ルールのもとで最善の判断をすることが重要です。
複数の相続人がいる場合の注意点
相続人が複数いる場合、NISA口座内の資産の分配は以下の点に注意が必要です。
株式は「分割」ができない
現金と違い、株式は1株単位での保有となるため、きっちり分割できない場合があります。たとえば100株を2人で相続する場合は50株ずつに分けられますが、端数が出る場合は一方が端数分を現金で補填するか、売却して現金化してから分割する方法が現実的です。
全員の同意が必要な遺産分割協議
遺産分割協議は相続人全員の合意が必要です。一人でも反対すれば協議が成立しません。遺言書がある場合はその内容に従いますが、ない場合は相続人間での話し合いが必要です。協議がまとまらない場合は家庭裁判所での調停・審判に発展する可能性があります。
名義書換には時間がかかる
相続手続き完了まで通常1〜2ヶ月かかります。書類の不備があればさらに時間がかかります。相続税の申告期限(10ヶ月)を意識しながら、早めに動くことが重要です。
相続後の新NISA活用戦略
相続によって課税口座に移管された資産は、NISA非課税の恩恵を受けられなくなります。しかし、相続人自身の新NISA枠を活用して再び非課税運用を目指すことは可能です。
相続した資産を新NISAで再投資する
課税口座で受け取った株式・ETFを売却し、その資金を自分の新NISA口座で再投資する方法が有効です。相続人の生涯投資枠(最大1,800万円)の範囲内で、毎年の非課税枠(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円=年間最大360万円)を使って再運用できます。
ただし一度売却した場合は「いつ売るか」のタイミングによって課税額が変わります。取得費加算の特例が使える期間(申告期限翌日から3年以内)と、新NISA枠への再投資タイミングを合わせて検討するとよいでしょう。
新NISAの長期運用と出口戦略については新NISAの出口戦略・終了後の運用も参考にしてください。
生前贈与でNISA資金を子供に渡す(相続税対策)
相続対策として、生前に子供のNISA口座への資金援助を行う方法もあります。年間110万円の贈与税非課税枠を活用し、子供のNISA口座への資金を贈与することで、相続財産を減らしながら非課税投資の枠を広げられます。
ただし2024年から贈与税の生前贈与加算期間が3年から7年に延長されたため、早めの対策が重要です。詳しくは贈与税110万円の注意点をご覧ください。
証券口座の選択は生前から重要
相続手続きをスムーズにするためには、相続人と同じ証券会社で口座を持っておくことが理想的です。たとえば親子で同じ証券会社を使っていれば、相続時の移管がスムーズになります。
子供のNISAや教育資金を絡めた資産形成については新NISAで子供の教育資金を積み立てる方法、新NISA証券口座の選び方については新NISA証券口座おすすめ比較もご参照ください。
新NISA相続の手続きチェックリスト
最後に、新NISA相続の手続きをチェックリスト形式でまとめます。手続きが漏れないよう活用してください。
- ☐ 死亡届の提出(7日以内)
- ☐ 証券会社・銀行へ死亡連絡(口座凍結依頼)
- ☐ 被相続人の口座・保有資産の一覧作成
- ☐ 相続人の確定(戸籍謄本収集)
- ☐ 遺言書の有無確認(公正証書遺言は公証役場で確認可)
- ☐ 遺産分割協議(相続人全員で合意)
- ☐ 遺産分割協議書の作成(相続人全員の署名・実印押印)
- ☐ 金融機関への相続手続き書類提出
- ☐ 課税口座への移管完了確認
- ☐ 相続税の申告・納税(相続開始を知った翌日から10ヶ月以内)
- ☐ 相続した株式を売却する場合:取得費加算の特例の適用を確定申告で申請(相続開始日翌日〜申告期限翌日以後3年を経過する日まで)
まとめ:新NISA相続の5つのポイント
- NISA非課税は死亡日に終了——相続人への非課税引き継ぎは不可
- 移管先は同一金融機関の課税口座のみ——他社への直接移管は認められない
- 取得価格は被相続人の購入価格を引き継ぐ——含み益がある場合は相続人が売却時に課税される可能性がある
- 相続税はNISAにもかかる——上場株式は4つの価格の最低値で評価
- 取得費加算の特例で節税できる——相続開始日翌日から申告期限翌日以後3年を経過する日までの売却が条件
新NISAは運用中の非課税メリットは絶大ですが、相続という局面では複雑なルールが適用されます。手続きの遅れや見落としで損しないよう、相続発生後はすぐに行動を開始し、税理士・FPへの相談も検討してください。
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